キミにだけは遠慮しない
ーーーーーキーンコーンカーンコーン
…さあさあやって参りましたよ、放課後が。

以前までは放課後は大好きだった。
自分の好きなように過ごせるし。
…でも今は…。
アイツらに会ってから、放課後が嫌いになった。
なんか…アイツらに束縛されてる感じがするから。
でも、今日は違う。
さっき、決心したから…。
「…ふぅ〜…」
深く息を吐くと、席を立ち、2年C組に向かおうとした。
…あの女に会うためだ。
昨日行かなかったことを…謝ろうと思ったからだ…。

ーーーーーーーーーーガシッ。
「おい」
突然、頭を鷲掴みされた。
「い、痛ぇ…」
でも、私は分かっていた。
この声の主を。
この手の主を…!
そしてこの手によって、声と手の主の方を強制的に向かされた。
「やっぱりお前か」
私はため息混じりに言った。
「…ははっ。気づいたんだ、顔見なくても」
「バカ言うな。こーゆーことするの、お前ぐらいしかいねーんだよ」
青木田はまた、この前の時と同じような含み笑いをしていた。
普段は、こんな笑みじゃないのに…。
まぁ普段って言っても、ほんの少ししか見てないのだが。
「あはは、そっかぁ。じゃあ俺は特別なんだね」
青木田は、さらにニコニコしながら言ってくる。
「ば、バカ言うな!別にそんなんじゃ…」
「じゃー、とりあえず名前教えて?」
私の言うことは無視して、青木田はジリジリと詰め寄ってきた。
「大島、俺の前居た学校での俺のあだ名、知ってる?」
「な、何なのさ…」
「…ドS王子、だよ」
青木田は、相変わらずの含み笑いで言った。
「ど、ドS王子…!?」
てゆーかこの状況だと…この前みたいに壁ドン(?)されるんじゃ…。
しかも、自分でドS王子って言ってたし…。
このままだと、何をするか分からない。
危険を感じた私は、スッと足をあげた。

「うわっ…!」
ーーーーーーーーーードサッ。
青木田が床に倒れ込んだ。
理由はもちろん、私が青木田の腹を蹴り飛ばしたから。
「相変わらず、鈍いなお前。ドSって言う割には大したことねぇーじゃん」
青木田は腹を抑えて床でもがいていた。
ちょっと…やり過ぎたかな…。
でも、悪いのはどー考えても向こうだし…謝りたくない。
謝るくらいなら……
「…そんなに知りたいなら、教えてやるよ。私の名前」
あまりに痛そうだったので、ため息混じりに言った。
「……………え?」
青木田は、すごく驚いた表情で聞き返してきた。
「塩崎学園高等学校 普通科 2年D組 大島里緒。バスケ部に入ってたけど辞めた。趣味と特技は合気道。好きな色は黒。友達はいない。…これでいいか?」
私は一息で言った。
なんだか…緊張?っつーか、この変なモヤモヤはなんだ?
「………………………………………………………」
何故か青木田は黙ってジーッと私を見ていた。
「な、なんか言えよ!私が一人で喋ってるみたいだろ!?」
私はなんだか恥ずかしくなってきて、怒鳴り口調で言った。
顔が熱い…。
きっと今私の顔は…トマトみたいに赤いのかな…。
鏡欲しいわ…。
「………………………………………里緒」
ようやく喋った!
…………………………………………………………って、え!?
「里緒…って言うんだな…名前。可愛いね」
「……はっ!!??」
…か、か、可愛い……!?
「ば、バカ言うなっ!!わ、私、帰るっ!つ、付いて…くるなよっ…!」
ヤベぇ。心臓バクバク言ってる。
私は鞄をギュッと握りしめて、慌てて廊下に出ようとした。

ーーーーーーーーーーグイッ。
「……………………………………んっ」
突然左腕を掴まれたと思ったら、青木田の方に引き寄せられた。
そして、目を開けると…青木田の顔が間近にあった。
え!?
これ…き、き、き………
ーーーーーーーーーードンッ。
「お、おい!い、今…何を…」
「ん、何か可愛いなって思ったからキスした」
「む…無責任な!なんで…」
そこまで言うと、私は周りを見渡した。
幸いにも、教室には誰も居なかった。
不幸中の幸いってやつだな…。
「顔真っ赤!…もしかして、ファーストキスだった?」
「………………………!!!!」
私は目を見開いた。
もう…ここにはいられねぇ。
私は猛ダッシュで昇降口に向かった。

き、キスなんて…してねぇ。
ファーストキスなんて…知らねぇ!!
今のは記憶から消去…!
記憶から消去!!!!
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