キミにだけは遠慮しない
「おっす、大島ー!」
回し蹴りした次の日の朝。
青木田は何もなかったかのように挨拶してきた。
今日は含み笑いではないが、爽やかな笑みではなかった。
「…………………」
当然は私は完全無視。
もう青木田とは関わりたくねぇもん…。
青木田の方はほとんど見ずに、自分の席へ着いた。
今日は少し寝坊したから、始業時間ギリギリなんだもん…。
青木田は、そんな私の意志はお構いなしに、ペラペラと勝手に話しかけてくる。
「ねぇねぇ、友達なってよー」
「今日の1限目の古文、難しいみたいだね。俺古文苦手だから、教えてねー」
「俺今日学食行くんだ。良かったら一緒に食べよーよー」
…………………………………うるせぇ。
朝から何でこんなに元気なんだよコイツ…。
「…うるせぇ。少しは黙れねーのかよ」
私はたまらなくなって、怒りを抑えながら一言言った。
もちろん、下を向きながら。
目を合わせるのもだるいし。
「じゃーさ。放課後、昇降口前で少し話そ?」
青木田は私の言葉を無視して言ってきた。

「…………………………………」
あ、そういえば。
あの女、どうしたかな?
まさか…待ってなかったよな?
私は昨日、青木田を回し蹴りした後、早足で帰っちまったんだ。
なんか申し訳ねぇ…。
昨日は面倒くせぇとか思ってたのに…今更…。
今の自分は、ものすごく訳わかんねぇと思ってしまった。
青木田のさっきの発言より、昨日の女の事を考えていて、自然と青木田を無視していた。
「…ねぇー聞いてるー?大島さーん」
今度は私の顔を覗き込んで言ってきた。
すると同時に、1限目の始業のチャイムが鳴った。
…ナイスタイミング!
チャイム、愛してるぜー!!
こんな事を思う程だった。
私はニヤリと笑った。
これにはさすがの青木田も、自分の席に座って教科書類を出し始めた。
青木田は、先生の間では優等生で有名らしいからな…。
それに、他の奴らも…青木田は優等生だって言っていた。
それを聞いて私は、あんな奴のどこが…と思うだけだった。

その日の授業は、ぽけーっと聞いていた。
アイツら二人の事で頭がいっぱいだったからだ。
んー、だるいが家に帰ったら復習するか…。
赤点取ったら面倒くせぇし。

ん?………てか、待て待て。
私…なんでアイツらの事こんなに考えてるんだよ!
友達でもないのに…。
こんなに誰かの事を考えたのは初めてだった。
…………………でも少し、思い始めたことがある。

アイツら二人の事だけは…信じてやろうかと。
もっとアイツらの事が知りたい…と。
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