可愛い弟の為に
「早いよ、来るの」

まだ時計は7時45分。
僕は思わず愚痴を言う。

「癖だよ、癖」

紺野総合では7時30分には病院内にいたからだろう。
それは何となくわかるけどね。

「兄さん、何飲む?」

透は数日前、ここにお茶セットを持ち込んだ。
コーヒーやら紅茶やら、日本茶など、淹れるのが好きらしい。

「紅茶」

「銘柄は?」

「おススメを」

透は頷いて、病院3階にある休憩室のキッチンに立つ。

「今日は僕も色々と大変だから連れてこなかったけど、明日からはハルも凛も連れてくるよ」

「助かるよ~!」

僕の予想通り、病院の経理をしていた人が4月の院長就任と同時に辞めた。
桃ちゃんのお父さんじゃないと働きたくないんだって。
それから必死に経理をしたさ。
おかげでずっと睡眠2時間くらいだよ。
本当に解らない部分は若林先生に相談したり、ハルちゃんに聞いたり。
見兼ねたハルちゃんが帳簿を持って帰ってくれてチェックしてくれたり。

透がここに来ることが決まって、それなら子供と一緒にいながら仕事して貰おうという事になった。
まあ、あまりに疲れたら隣は保育園だしね。
空きがあれば一時保育も申し込めるし。



透はというと。
本当ならもう少し先だった、ここへ来るのは。
けれど…。
ハルちゃんが…。
色々と限界に達して、どうしようもなくなったのが6月。
二人の子供、凛が6カ月になろうかという時だった。

『もう少し、時間が欲しいな、僕』

小児科の夕診後、そう呟いた透の顔は本当に辛そうだった。

「それなら潔く僕の所へおいでよ。
独身の時の透とは立場も違うし、背負っているものも全然違う。
ハルちゃんと凛の為に来い」

と命令したら、素直に従ったのだ。

翌日には紺野に退職の意を伝え、若手小児科医達の尻を叩いて短期間で透が背負っていた事を覚えさせたらしい。
やれば出来るじゃないか、若手も。

で、8月からここの常勤。

小児科は朝、3人体制となった。
パートで入ってくれている2人も子供の調子が悪いなど何かあれば休めると言って喜んでいた。



「はい、どうぞ」

「ありがとう」

まあ、僕にとっては本当に、本当に!!助かった。
小児科医も、経理も。
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