可愛い弟の為に
内科もシーズン的に忙しかったが、クリスマスイブからクリスマスへと変わる頃には人が捌けた。

妙な静けさが広がっていて少し気持ち悪かった。

そんな中、バタバタっと怪我人が乗用車で運び込まれ、外科がにわかに騒がしくなっていた時、救急で運び込まれた男の子がいた。

「すみません、応援お願いします」

外科の医者が僕に言うのは珍しい。

交通事故だというその患者を見て、僕の方が心臓が止まりそうになった。

以前、会った柏原 拓海君だった。

カルテにもその名前化記載されている。

間違いない、透の友達だ。

見た目は外傷なし。

でも、明らかにこれは…。

「すぐにレントゲンとCT、腹部エコー、お願いします!」

気が付いたら、叫んでいた。

絶対に内臓損傷だ。

そう確信していた。

救急車が事故現場へ到着した時、まだ彼は意識もあったが今はもうない。

顔面が蒼白。

すぐに手術が必要…だが、もう手遅れかもしれない。

外科にも連絡を入れる。

どうにか助かって欲しい。

けれど、その後、すぐに心拍が低下してきた。

「もう、手術は無理ですね」

検査結果は壮絶なものだった。
外科の先生は頭を横に振る。
その時点でもうすぐ夜が明ける時間だがたまたまこの日、内科の患者がピタッと止まっていた。

だから僕はそのまま、拓海君に付くことにした。

モニターを睨みながら様子を見る。

時折、そのモニターが曇る。

ダメダメ。

ご家族が尚更不安になる。

自分を心の中で叱咤する。



そして頭の奥の方でもう一人の自分が

「透になんて言おう」

と呟いていた。
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