48歳のお嬢様
熟年夫婦旅行…ですか?
静かな午前の室内で旅行雑誌を読んでいた私は、その内容に誘われて、居ても立ってもいられなくなってしまった。

こういうところが、勝手で我ままな子供のままなのだ。


「午後から二人でお出掛けしない?」


「はい、かしこまりました、お嬢様。
どちらへおとも致しましょうか?」


「これよこれ、こういうお出掛け、してみましょう」


私は特集ページを見せた。


「……お嬢様、これは……」


『半日でもゆったり楽しめる日帰り熟年夫婦旅行』


「世間の50代以上のご夫婦は、お子さんも独立して二人の時間があるのよ。
いつまでも仲よく暮らすためには、時々こういうイベントも大切なのね。
和樹と私って、ただ夫婦じゃないだけで、その辺の熟年夫婦より長い間、一緒にいるじゃない?
こういうのピッタリじゃなくって?」


「ピッタリ…でございましょうか…。
まあ…はい、かしこまりました。
でしたらこちらの、
『老舗温泉でくつろぐ贅沢な一泊』
に致しましょう。
慌ただしいと、お嬢様がお疲れになります」


「そう?それもいいわね。
でも、今からお部屋とれるかしら?」


和樹の仕事は速くて確実なの。
ほら、もうネットで調べて予約しちゃったわ。


「近場にもあるのですね、こういうところが。
こちらのロイヤルスイートが空いてございました。
二寝室ございますのでご安心ください。
バスルームの他に客室露天風呂付ですので、お嬢様がご利用なさるとよろしいかと存じます。
夕食は部屋食に致しました。
朝食は…ルームサービスを頼みましょう」


「和樹がいれば旅行雑誌は必要ないわね」


「いえ、それが無ければ出掛ける気にはなりませんでしょう?
紙媒体の切っ掛けは重要です。
……さあ、急いでお支度いたしましょう」



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