48歳のお嬢様
週末、二人で直樹さんに相談しに行った。

私は、失念していた。
ベテラン執事であり、北條路家の仕来たりを聞けばわからないことは何もない『北條路の生き字引』の彼に聞けば、
何とかなると言う思いしか頭になかった。

花村直樹は、和樹の父親で、性格も仕事の仕方も考え方も何もかもを和樹が引き継いでしまっていたのだった…。




「雪恵様、それは大変おめでたく、先代とのお約束が果たせて私もありがたき幸せにございます。
先代もご夫婦お揃いでさぞやお慶びになっていることでございましょう。

お美しい花嫁姿を見せて差し上げとうございました。

それで、お式は神前でございましょうか?
代々、氏神様にお許しをお願いしておりますゆえ。

しかしながら時期が少々遅うございますので、神前形式の略式も前例がございますが?」


「いえいえ直樹さん、少々どころか世間様より何十年も遅いと思いますわよ?

分家の方々を何人かお呼びして、でよろしいかと思いますの。

花嫁と呼ぶには、もうだいぶ活きが悪くなっておりますでしょう?
ですから私は別に平服で構わないと思いますのよ?
和樹はお式で花嫁衣装も着て、披露宴もすると言うのですが、
披露しては恥ずかしいのではないかしら?」


「何をおっしゃいますか、雪恵様!
まぁ、略式の略式で少人数のお式にすると致しましても、
花嫁衣装は一生に一度のもの。
北條路家ご当主のご結婚でございますよ?
少なくとも一族と学園に向けてだけでも、披露し祝ってもらわなければ、ご先祖様にも申し開きができません。

お願いでございます。
この老体に、冥土の土産と思って麗しいお姿をお見せくださいませ」


「直樹さん、冥土の土産なんて縁起悪いこと言わないで?
そうですわね。和樹の結婚式でもあるもの…。
息子の晴れ姿も見たいですわよね。
ごめんなさい、私が恥ずかしいと思うばかりで、直樹さんや和樹の気持ちを忘れそうになっていましたわ」


「お嬢様、父や私の気持ちはよろしいのでございます。
ただ私は、一生に一度のことでございますから、それをお嬢様に経験して頂きたいのでございます」



結局、結婚式は神前形式で北條路家の分家の参列で小規模で行い、
披露宴は北條路一族と学園関係者、近親者を招いて和装洋装で行うことに…。

結局、こういう恥ずかしいことになってしまった。

でも、歳を取って似合わないのはわかっているけれど、
花嫁衣装だとかウェディングドレスだとか、
そういうものにはやっぱり憧れるわよね。

和樹はそんな私の気持ちを、わかってくれているのだった……。





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