尽くしたいと思うのは、
◇交際の幕引き




例年よりはやく梅雨が明けた直後の晴れの日は、いつもよりずっと色が鮮やかに感じられる。重く暗い雲がなくなり、空が高くなった。

肌に張りついていた空気がさらりと軽やかに撫でる。もっと夏らしくなってきたら、またじわりと染みいるようになるんだろう。



だけど今はとうに陽は落ちた。夏が始まる前の、仕事を終えた夜。

空は紺色に染まり、とても深い。星がちらちらと瞬いている。



「ふぅ……」



かすかに息をもらす。

道中でスーパーに寄り、適当に野菜やお肉なんかの一品作れそうなものを買いこんだ。うっかり買いすぎてしまったせいで、ビニール袋が掌に食いこむ。



だけどそんなこと、たいしたことじゃない。
今のわたしの気に触るようなことじゃない。

ふふっと笑みがこぼれおちた。



だって、月曜日から仕事を耐えて、今日は待ち望んだ金曜日。



同期や上司と飲みになんて行かず、体型をキープするためにジムに行くわけもなく、家にまっすぐ帰るなんてありえない。

わたしが向かうのは、いつだってただひとつ。



彼氏────賢治(けんじ)の家なんだ。



最寄駅からの距離はまぁまぁ、近くにスーパーやコンビニが揃ってる。綺麗とは言いがたいけど、それなりな外観のマンション。

普段から意識して階段を使っている習慣から、3階まで黙々と登った。



その1番奥。彼の部屋から明かりがもれている。



「よかった、いるみたい」



今日は約束していなかったけど、仕事が思ったより早く終えられたから来てみたんだ。

メールはしておいたのに返信がなかったから不安だったけど、気づいていなかったのかな。






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