尽くしたいと思うのは、




確かに飲もうって思ったし、実際言葉に出した。そう、自分から言いだしてしまった。

だけど、それにしても……



「飲みすぎたぁ……」



体調は悪くないし、気持ち悪くもない。むしろ気分がよすぎる。

ふわふわとした心地よさと冷房が効いていてなお熱のこもった体。なにもなくても少し楽しくて、完全に酔っているなと自覚する。

とはいえ自分ではうまくコントロールできない。



「くるみさん大丈夫ですか?」

「んんー」



大丈夫! 頭は冷静だよ!

とか、そんな酔っぱらいみたいなこと言えるわけもないので。



「お手洗い行ってくるねぇ……」



とりあえず、休憩。






「はぁ……」



手を洗ってハンカチで水をぬぐう。そのままの流れで軽く化粧をなおした。

鏡の自分と目を合わせ、ふんわりとしていた意識を引き締める。



絡みが悪い時もあるけど、うちの会社の人はみんないい人たち。

困ったことがあったら助け合うし、基本的に仲がいい。アットホームな雰囲気で、みんなで飲むの、好きなんだ。



明衣ちゃんとなんて、ちょっと大変な仕事を終えたばかりだし。特に気持ちよくお酒が楽しめる。

わたし、とてもいい環境にいるんだよなぁ。



それでもやっぱり、さっきの尽くしてくる発言はちょっとショックだったけど。



だってあれはわたしにとって当たり前のこと。あまりにも当然で無意識のことだったから、静かに衝撃的だった。

わたしは知らず知らずのうちにここでも尽くしていたのかって。



尽くすことは嫌いじゃない。恋愛感情だけでなく、誰かのためになにかをしたいし、それがなにかの役に立つなら。

もしそうだというのなら、それだけでわたしはとても幸せだと思う。



まぁ、ね。いつも重たいって言われて、都合のいい女だからわたしはだめなんだけど。

そう簡単にはいかないんだ。



ふぅ、と息を吐き出して、お手洗いの扉を開けた。






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