尽くしたいと思うのは、




訪れたのは、ふたりで飲む時によく来るスペインバル。樽のデザインの置きものに、壁を飾るのはメニューが書かれた黒板。カウンター付近には酒瓶が並んでいたりと雰囲気がいい。

天井からさがる電灯の光は柔らかく、活気づいた店内を照らしている。



ここは生ハムやアヒージョも美味しいけど、なによりも1番は魚介のパエリア。大きな海老が見た目も味も豊かにしてくれる。ちょうど2人前だからいつも頼んでいるの。

それにわたしがサングリア、真由がティント・デ・ベラーノを注文する。その他のもの全てがそろって食べはじめると、



「それで?」



真由は話を促した。

いつかも聞いた言葉に、わたしはフォークを持ったまま固まりきょとんとする。その間抜け面を見ることもなく、彼女はさらに言葉を重ねた。



「なにか話したいことがあるんでしょう?」

「……どうして」



ぽつり、と声をこぼす。



どうして、真由にはわかるんだろう。

わたしが聞いてほしいことがあるって。
だけど切り出すことができないんだって。



「さぁ……なんとなく、かしら」



真由が視線をあげて、軽く首を傾げる。揺れる髪がつややかでとても美しい。

ふっと彼女がかすかにもらした息が優しさをはらんでいて、わたしは思わず瞳を潤ませた。



「それに、なんだかくるみの言いたいこと、わかる気がしてるのよね……」



ぴりりとわずかにトーンがおちた声色に、びくりと肩が揺れた。料理に向けられた目はわたしと合わない。

だけど場の空気に背を押されるようにして、わたしは実は……と話を切り出した。



「わたし、ね。気になる人が、できたの」



唇が震える。空気がそっとかすめていく。

本人に告白したわけでなく、伝えたわけでもないのに胸がどきどきと高鳴り、甘い感情が広がる。それをかろうじて胸の内におさめながら、背筋がぴんと伸びるような気持ちになった。



気になる人。

……〝今はまだ〟気になる人。






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