尽くしたいと思うのは、




少し気恥ずかしくなりえへへ、と笑うも、



「はぁ……」



真由は重いため息をその場におとした。

その反応に、どうかしたの? と首を傾げつつ、サングリアを口に運ぶ。すると彼女が驚くべき言葉を発し、思わず喉をつまらせる。



「それって加地さんのことでしょう」

「っ!」



なんとか口から吹き出すのをこらえる。目を見開きながら、彼女を見つめる。

真由はエスパーかなにかですか。



「あんたがわかりやすいのよ」

「えー……?」



そんなつもりはないんだけど、と思いつつも真由の暗い雰囲気にそっと様子をうかがう。ぱちりと重なった瞳が細められる。

その姿に心がひやりとした。



「やめておきなさい」



きっぱりと言い切った真由の様子に、そっと息を忍ばせる。吸って、吐いて、心を落ち着けようとする。

だけど……やっぱり難しいみたい。どくどく、と心臓の音が全身に伝わった。



「また痛い目みるわよ」



社内には浅田さんとかまともな男がいるのに、なんだって1番問題のある人にいくのよ。なんて彼女が小さくぼやく。



真由が言うことに間違いはない。

つい先日、佐野さんにより加地さんには不特定の女性と体の関係があるという噂が正確なものだとわかった今。彼と関わることはあまりいいこととは言えないだろう。



男運のない、恋愛下手なわたしが迂闊に手を伸ばしていい領域じゃない。うまくやれるはずがない。また失敗して、ぼろぼろになって、真由に泣きつくんだ。

今回なんて、今までと違い同じ職場の人が相手。賢治の家に通っていたのとは状況が大きく変化し、学生の頃よりずっとあとが大変に決まっている。



減っていく連絡、素気ない対応、言われなくなる〝好き〟という言葉。家政婦のようになっていって、都合のいい女のまま必要とされることにすがって走り続けて、遭遇してきた数々の浮気現場。

ろくでもない過去、過去、過去。



それらと比べた色々な可能性や、陥るかもしれない最悪な状況が頭に浮かぶ。とっくの昔にわかってる。

わかってるよ。



────だけど、だから、なんだというの。






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