尽くしたいと思うのは、
◇努力に差し入れ




ふぅ、と息を吐き出して、長いこと向きあっていたパソコンから顔をあげる。目がしんどいなぁと思いながらも作業はまだまだ終わらない。

ぐっと伸びをしてから、立ちあがる。



ブラウスの上には冷房で体が冷えすぎないようにカーディガンを羽織っている。その下のフレアスカートの裾がふわりとかすかに揺れた。



わたしのいる総務部の席からほぼ対極にある、営業部付近に足を進める。フロア内に隙間を埋めるように設置された棚には資料のファイルが収められているんだ。

資料室は上の階にあるけど、そっちはどちらかというと古い資料ばかり。ふたつある部屋のうちのひとつは大きなサンプルや備品で埋め尽くされている。



わたしの勤めている会社────すずめは輸入雑貨を扱う会社だ。昔ながらの田畑だけでなく今の街中にも数多くいる雀のように、日本中にうちの雑貨が置かれることを祈ってつけられたらしい。

デパートに入っている雑貨屋や、雑貨の販売もしているカフェなんかに商品をおろしている。小物や置きものだけでなく、日用雑貨にも幅広く手を出している。



柔らかい雰囲気の女性向けのものがメインで、経営は良好。交通の便がなかなかいい場所にあるオフィスビルの7・8階を借りている。

社員はみんな7階でフロアをわけずにつめこまれ、窮屈だけど、距離が近い分みんな仲がいいと思う。

まぁ、わたしと加地さんは例外なんだけどね。



そんな加地さんの席の近くにあるファイルを取りに行く時は、いつも意図せずどきどきしてしまう。また変にからかってきたらいやだなぁ、なんて。

だけど、そんな心配は無用。



「はい、……はい、そうですね。
その点につきましては……」



電話の対応をしている加地さん。

高すぎず低すぎず、自然と響くその声ははきはきとしていて聞き取りやすい。丁寧な説明は理解しやすいもの。



内勤の加地さんとは違い、浅田さんは今日はいないらしい。加地さんの正面の、浅田さんの席は空いている。

綺麗にまとめられた机から、彼の性格が伝わってくる。






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