逃げ惑う恋心(短編集)



 公演中だってこともあるけど、最近毎日友ちゃんと会う。

 昨日が東京千秋楽で、今日は午後から一緒に雑誌の撮影。対談もする。

 場所はおしゃれなカフェだったから、撮影が済んで対談の準備をする間、窓際の席で外を見ながら休憩した。

 話を切り出したのは、友ちゃんだった。

「いとこと仲直りしたか?」

 いとこ。千穂ちゃんのことだ。

「ていうか喧嘩してないし……」

「あからさまに落ち込んでるから、状況悪化したんだと思った」

 店員さんのおすすめだというフレーバーティーを啜りながら、友ちゃんが笑う。

「ていうか千穂ちゃんと喧嘩したことないし」

「じゃあ初めての喧嘩か」

「だから喧嘩じゃないってば」

 昨日からずっと、千穂ちゃんに連絡したくてうずうずしている。

 でも地方公演の前にごはんを作りに来てくれると言っていたし、千穂ちゃんも仕事があるし、生活の邪魔はしたくないし……。

「友ちゃんは?」

「なにが」

「最近千穂ちゃんと話した?」

「全然」

「だよね」

 千穂ちゃんが何度か友ちゃんの名前を出したのも気になるけど、会うときはいつも三人だったから、千穂ちゃんと友ちゃんが不仲というわけでもなさそうだ。

 ため息をついて、コーヒーを啜る。

「恋する乙女か、お前は」

「恋じゃないし、乙女じゃないもん!」

「色々あんだろ、いとこだって。お月さまの日だったとか」

「友ちゃんデリカシー!」

「だから伏せただろうが!」

 思い返すと、昔っから千穂ちゃんはこうだった。

 にこにこして、なんでもないよって言って。悩みも相談してくれないし。そりゃあおれじゃ頼りないかもしれないけど……。おれの一番の仲良しは千穂ちゃんだと思っているし、感謝もしている。だからおれにできることなら何でもしてあげたいのに……。

「春、春」

「ん?」

 顔を上げると友ちゃんは窓の外を見ていて、何かを指差している。
 おれもその指の先に目をやると……。千穂ちゃんがいた。



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