それでも君を愛せて良かった




「本当にごめんよ、ファビエンヌ。
じゃ、僕…そろそろ戻るね。
本当にごめん……」

僕は、彼女の手を握り、懸命に想いを断ち切って部屋を出た。



朝食後、僕は彼女の部屋に行って、昨日と同じように彼女の顔を拭き、髪の毛を梳かしながらついさっきの出来事を話した。
今までみたいに長い間一緒にいられないことを話したら、ファビエンヌはやはり寂しそうだったけど、それでも僕の事情を理解してくれたように思えた。
彼女はそういう人なんだ。
優しくて、思慮深くて…僕のことを一番に考えてくれる。
そのことがわかるだけに、僕の胸は余計に痛んだ。



昼食を食べ終えてから、僕は再びあの部屋を訪ねた。
明日からは、真面目に仕事をしなけりゃならない。
それはファビエンヌとの時間が少なくなる事で…それを思うと、僕の胸ははりさけそうだった。



夕食が終わり、父さんが眠ったのを確認すると、僕はまたファビエンヌの部屋を訪ねた。
ここにいられるのは、せいぜい十二時くらいまでだ。
懐中時計を見ながら、僕は小さな溜め息を吐いた。
彼女はまた狭くて暗いこの部屋で一人ぼっちで夜を過ごす事になる。
彼女を部屋に連れていこうかとも思ったけれど、そんなことをしたら父さんにみつかってしまう。
今はまだだめだ。
誰にも知られないようにしなくては…



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