それでも君を愛せて良かった
ある日、父さんが僕に探し物を命じた。
なんでも、僕のおじいちゃんが以前作ったブレスレットを参考にしたいとのことで、それを地下の物置きから探して来るようにということだった。
僕がまだ小さかった頃には、兄さんとそこで遊んだこともあったけど、大きくなってからは行く事はめっきり少なくなった。
元々その部屋は、以前住んでいた住人が酒蔵として使っていた部屋だということだった。
おじいちゃんはそれほど酒を飲む方ではなかったので、そこを物置きとして使っていたようだ。
昼間でも暗くひんやりとしたその部屋は、子供の頃にはけっこう怖い場所だった。
それでも、どこか秘密めいていて、不思議な魅力があり、僕と兄さんはその場所を秘密基地のようにして遊んでいた。



(ここに来るのは久し振りだな…)



僕は、地下に続く扉を押し開けた。
途端に、黴臭いにおいが鼻をくすぐる。
カツカツと妙に響く自分の靴音を聞きながら、地下への階段を降りて行くと、幼かった昔の記憶がぼんやりと脳裏をかすめた。



(そうそう…兄さんと遊んでる時、ランプの油が切れて急に真っ暗になったことがあったな。
あの時、僕も兄さんも怖くて死にそうになって、ものすごい声で泣き叫んでたら父さんが来てくれて…
確か、あの時を最後に地下には下りなくなったんじゃないかな…
そうだ…その前から、父さんには地下には行っちゃだめだって言われてたのに、僕達は言う事を聞かなかったんだ。
でも、そんな怖い目にあってからはもう行きたいとも思わなくなった…)
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