それでも君を愛せて良かった




「確かにあるはずなんだ。
俺がまだ子供の頃、確かに地下の物置きで見た記憶がある。」



僕は、父さんと一緒に金細工の仕事をしている。
僕らが暮らすのは片田舎の寂れた町だ。
住む人も少なく、気の利いた店や面白いものなんて何もないけど、静かで自然がいっぱいで、僕はそんなこの町のことを嫌いだと思ったことはない。
でも、兄さんはこんな田舎にいても仕方がないと、もう何年も前に都会に出て行ってしまった。
母さんは僕がまだ小さい時に死んでしまったから、僕は父さんと二人暮らしだ。
父さんはけっこう腕の良い職人で、わざわざ遠くの町から父さんに仕事を頼みに来る人もいる。
父さんの父さん…つまり、僕のおじいちゃんも細工職人だった。
僕はまだ二人の足元にも及ばない新米で、ろくな仕事はさせてもらえない。
一人前の職人になるにはまだまだだと、父さんには毎日叱られてばかりだ。



< 2 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop