それでも君を愛せて良かった
僕は、口紅を指に取り、それをファビエンヌの唇にそっと塗り付けた。
初めて触れた彼女の唇は固くひんやりと冷たかったけど、白く色褪せた唇が赤く彩られていくうちにやわらかさや温かさもが戻っていくようなそんな気がした。



「……ファビエンヌ…綺麗だ…
すごく綺麗だよ!」

口紅をさしただけで、ファビエンヌの表情は今までとは別人のように明るく変わった。
あまりの美しさに、僕は呆然と見惚れるほどだった。
まるで天使のようなファビエンヌ…
ただ、顔が華やかになった分、彼女が身につけたドレスが今までよりもさらにみすぼらしく見えるのが気にかかった。



「ごめんね、ファビエンヌ。
本当は、今日、君のドレスも探したんだ。
でも、君に似合いそうなドレスがなくて…
君は細身だからサイズも少ないし、なんだか妙に品のない大きな水玉やこげ茶色や濃い紫色のものしかなかったんだ。
君にはそんなのは似合わない。」

そう話しながら、僕はファビエンヌにはどんなドレスが似合うだろうかと考えた。
彼女の雰囲気からすると淡い色の方が良い。
ピンクやブルーの…



(あ!そうだ!)



「ファビエンヌ、ちょっと待ってて!」

僕は隣の物置きへ駆け出した。
母さんのドレスがあったことを思い出したからだ。
< 36 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop