リアルラヴァーズ
真夏の前



 個人的に、その人との出会いは最高で、最悪だった。



 ちょっぴり茶色に染めた、肩まで伸びた髪。

 視力が弱いのと、眼鏡が似合わないからと毎日恐る恐る使用するコンタクトレンズ。

 白のYシャツの上には地味な紺のサマーニットのベスト。下は紺と暗めの緑を基調にしたチェックのミニスカートを着用。

 靴下には一目ぼれで即購入した、ワインレッドと、黒のボーダー柄のオーバーニー。
 鞄にはじゃらじゃらと着いた缶バッジ。

 外見は、何処にでも居る普通の女子高校生。




 そんな私には、ふたつ、人にはあまり言いたくない秘密めいたことがあるのだ。

「あ、今日は愛情の砦の新刊の発売日か」
 駅前のビルで見つけた「書店」の文字に、今自分が少しはまっている、漫画の新刊の発売日だということを思い出す。

 普通の女子高生でも、話題性のある漫画や情熱的な恋愛漫画は普通に読むもの。
 だから、漫画を読むなんて、普通のことかもしれない。
 それが、そういった類の漫画なら。

 私が読みたいと思っているのは、普通の漫画ではない。今なんとなく流行っている、「オタク」層として認識されるであろう漫画だ。
 そう、ひとつめの秘密とは、自分が「オタク」であるということだ。
 まあ最近はオタクにもそこまで風当たりが悪くないし、特に女の子は、おしゃれな子も多いので、特に秘密にする必要も無いのだが。

 でも、個人的にはあまり自分がオタクであるとは周囲に認識されたくない。……同類は別であるが。

 私は一瞬、書店に寄ろうかと足を止めるが、現状を思い出し、諦めることにした。

 腕に巻いた銀の鎖状のベルトと、淡いピンクの文字盤の、割と安値で可愛らしい時計を見る。時刻は3時58分。
 待ち合わせの時間は4時なので、時間が無いのだ。
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