上司がキス魔で困ります

 出た!
 音羽課長の「気の迷い」!!
 毎度のことながらエキサイティング極まりないやりとりだ。

 私はゴクリと息を飲みながら、目を凝らし耳をすませる。

 言っておくがこれは好奇心ではない。
 巻き込まれないための自衛であると強く宣言しておきたい。


「そして嫌いも何も、俺は君のことを知らないし、多分これからも知ることはないと思う。そんな男を好きになるなんて勘違い極まりない。すぐに忘れたほうがいい」


 音羽課長はかなりひどいことをそうでもない様子でさらさらと言い放つと、呆然と立ち尽くしている女性から興味を失ったのか、またデスクにつき、キーボードの上に指を滑らせる。


「ひどいっ……! そんな人だとは思いませんでしたっ!」
「ああ、勘違いだとすぐにわかってよかったな」
「……っ!」


 彼の涼しげな瞳はディスプレイから動かない。
 課長は嫌味を言っているわけではない。あれが通常運転なのである。





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