上司がキス魔で困ります

 だが女子はバカにされたと感じたらしい。
 ぷるぷると大げさに震えたあと、わざと足元のゴミ箱を蹴っ飛ばして、
「失礼しましたっ!」
と、きびすを返す。

 激しいな!
 ってかやばい、こっちに来る!

 慌てて入り口に置いてある観葉植物の裏に隠れる。

 幸運にも見つかることはなく、彼女はエレベーターの呼び出しボタンをガチャガチャ押しまくって、エレベーターに飛び込んだ。

 よっぽどムカついたのだろう。
 綺麗な顔が台無しレベルでかなりおっかなかった。


「……えっと、お疲れ様です」


 事務所に戻らないわけにはいかず、私は深呼吸して中に入る。


「春川くん、おかえり。今日は接待で直帰じゃなかったか」


 音羽課長はたった今繰り広げられた修羅場などどこ吹く風で、壁にかかっている時計を見上げる。


「そうなんですけど、接待の途中でちょっと面白いこと思いついたので、仕事して帰ろうかな、と」


 そしてそういう時に限って、音羽課長が女子を振る場面に遭遇する。これで何度目かわからないが、まぁそのくらい音羽課長はモテモテなのだ。

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