役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
ふと、エレーナの足が長いこと止まっていることに気付きそっと近づいた。

彼女は青いガラス玉の入ったブローチをじっと見つめていた。

王女の持ち物としてはあまりにも安っぽいが・・・

「気に入りましたか?」

俺の声に驚いたのか、エレーナが弾かれたようにこちらを振り返る。

「ブローチが欲しいなら、向こうの棚にもいくつか飾られてますよ」

あちらの棚は少し高価な、きちんとした宝石が使われている品物を置いていた。

どちらにしても王女が身につけるようなものではないが、いくらかマシだろう。

「ううん。ブローチが欲しいわけじゃなくて、これが気に入ったの」

向こうの棚に誘導しようとした俺を制して、エレーナは言った。


質のいい宝石を見慣れてるであろう彼女が、どうしてこんなおもちゃを気に入ったのかは謎だが・・・


本人がいいのなら、まぁいいか。

俺はガラス玉のブローチをひょいと取り上げた。

「このくらいならプレゼントしますよ」

「いいの!?」

エレーナは幼い子供のようにはしゃいだ声をあげた。

「同じ青い石でも、サファイアは無理ですけどね」

俺は片目をつぶって、悪戯っぽく微笑んでみせた。

「ありがとう!!」


ティーザ城への帰り道。

彼女が買ったブローチをあまりにも大事そうに抱えているので、俺は思わず聞いてしまった。

「俺にはただのガラス玉に見えますけどねぇ。 何がそんなに気に入ったんですか?」

エレーナからはあまりにも予想外な答えが返ってきた。

「この石、アゼルの瞳にそっくりだなぁと思ったの。 惹き込まれるようで、とっても綺麗でしょ」

そう言って、エレーナはとびきりの笑顔を見せた。
造形が整っているだけの俺の瞳より、眩しいほどの光を放つ彼女の瞳の方がずっと美しく価値があるのに彼女は気づいていないのだろうか。

心臓がぎゅっと鷲掴みにされたように苦しく、それでいて、じんわりと温かいものが広がる不思議な現象に俺はひどく戸惑った。


無気力・無関心を信条に生きてきたような俺に取って、こんな経験は初めてのことだった。
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