パンプスとスニーカー
 ブーッ、ブーッ、ブーッ




 「呼び出し、武尊、お前じゃねぇ?」

 「…ああ」




 言われて初めて気がついた。


 胸元の携帯の着信名を確認すれば、今日何回目かもわからない溜息が溢れる。




 「ちょっと、出てくる」

 「なに?女?」
 
 「そ。すげ~、古馴染み。最古参」

 「それは、…ご愁傷様」




 それだけで、長い付き合いの壮太には察せられて、グッドラックと指を切られてしまった。


 …マジだぜ。


 席を立って、カフェテリアの出入り口へと向かう。


 通りすがりざま一応顔見知りだからと、チラッと美紀に視線を向ければ、何をしているのだか、男一人を交えて、ガリ勉女と3人、円陣状態でうんうんと唸っているのが目に入る。




 「…え?延焼して部屋がダメになっちまったの?じゃあ、もしかして、今晩も泊まるところないってこと?」

 「そうなのよ。武藤ッチたら、銀行のカードも預金通帳もハンコとかも、部屋に置いてあったらしくて…」

 「まあ、普通はそうだと思うけど。クレジットカードとかは?」

 「……もってない」




 聞くともなしに耳に入ってきた会話の意外さに、つい立ち止まりかけ、だが再び鳴り出した携帯の呼び出し音にチッと舌打ちして足を進める。




 「うちに泊めてあげるって言っても遠慮するし、お金も貸してあげるって言ってるのに、それもダメだって」

 「武藤は堅いからなあ」

 「いや、2週間も頑張れば、バイトのお給料も出るはずだし…問題は」




 …いろいろ大変なやつもいるもんだ。


 自分ばかりがツイてない週末を過ごしたのかと思えば、そんな奴もいたんだと、妙に溜飲が下がった気がして、妙に足取りが軽くなった。




*****





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