パンプスとスニーカー
 「村尾んとこは、やっぱり気兼ねあるよな」

 「ええ?いいのに」

 「いや、倉田さんって社会人でしょ?仕事も大変なんだろうし、ホンの短期間とか言ったって、どうしても迷惑かけちゃうからさ」

 「…もうっ」




 彼氏なんて気にしなくていいと言ってくれる美紀の好意は嬉しいが、気さくな性格のわりにふだん友人たちを自宅に招かないところからして、パートナーがあまり社交的な人ではないのがひまりや松田にも察せられる。


 そうでなくても、やはり恋人たちの愛の巣に割りいるのは、ひまりではなくても遠慮するところだろう。


 横で聞いている松田もうんうんとしきりに頷いていた。


 とはいえ、アテにしている友人の沢が快く泊めてくれれば、ひとまずは安泰なのだが…。


 数日くらいネットカフェと24時間のファミレスでなんとか乗り切れるのではないかという、甘い目論見もある。


 が、ネットカフェは美紀に言われなくても防犯上のことを考えれば、女ひとりの利用はなるべく避けたい。


 …法学部の学生が犯罪に巻き込まれるとかシャレにならないよね。


 そして何より、ネットカフェやファミレスのような雑多な場所で、勉強に集中できるとも思えず、それが一番痛い。


 バイトに疲れた体をムチ打つことにもなれば、講義にも力が入らなくなってしまうだろう。


 成績がすべての特待生には何よりも頭が痛いことだった。




 「マルんとこは?」




 松田も聞いてくるポイントは美紀と同じだ。




 「つい最近、泊まらせってもらったところなんだって。ほら、あそこ親御さんと同居だから」

 「そっか」




 いつまでも、堂々巡りなことで友人たちを悩ませるのも不本意なことだ。


 とりあえずは、その場しのぎでも心配ないと伝えるべきかとひまりが口を開きかけた。




 「あのね、いざとなれ…」

 「じゃあさ、沢んとこもダメだったら、武藤、俺んちに来いよ」





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