窓ぎわ橙の見える席で


私がこの街に帰ってきた理由。
それは家族しか知らない。
てらみにも言っていない。
周りの友達には「故郷が恋しくなった」と言っていた。
潮風の香りとか、湿気でベタつく肌とか、自然にBGMになってしまう波の音とか。
そういうのが懐かしくなったと話していた。


本当は違うのに。





ここ最近毎日のように自宅まで送ってもらっているため、辺見くんの車の助手席に座ることが当たり前になっていた。
だからこそ気づく、車内の変化。
今日またひとつ見つけた。


運転席にしか無かったはずのドリンクホルダーが助手席にも付けられていた。
これは誰のためなんだろう。
まさか私のため……じゃないよね。


車が自宅の前の道路で停車し、いつものように彼がハザードランプを灯す。


「着いたよ」


辺見くんに声をかけられ、私はハッと我に返った。


「送ってくれてありがとう。また明日、お弁当ポストの上に置いておくね」

「うん、分かった」


助手席のドアに手をかけて、降りようとした時。
「ごめんね」と謝るのを耳にしたので手を止めた。


「どうして謝るの?」

「もしかして僕、聞かれたら嫌なこと聞いたのかなぁって。困らせてない?」


あら、辺見くんも人間らしいところがあるんだ。
そういうの気にしてくれるわけね。
ほんのり嬉しくなって、シートに身体を戻して「平気だよ」と言った。


「東京での生活が辛くなった……とか言ったら、辺見くんは信じてくれた?」

「…………う〜ん、信じなかったかも。だって宮間さん、そういうタイプじゃないよね?やりたいことは何が何でも貫き通しそうじゃない?」

「ご名答」


あまりに的を得た答えに、思わず笑いがこぼれてしまった。


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