窓ぎわ橙の見える席で


私がウンともスンとも言わず、だからと言って抵抗するわけでもないので、辺見くんも動かずにじっと私を抱いたままだった。
ラジオから時報が流れる。
22時になったらしい。


彼は痩せているから、か細くて華奢な体なのかと思っていたけれど、意外とそうでもない。
なんと言うか骨っぽくてそれなりにゴツゴツしていて、それでいて胸も広いし私の身体がすっぽり収まる。
視界は彼の肩に完全に埋もれ、潤みかけていた涙はどこかへ行ってしまった。
同時に湧き上がる渦巻く久しぶりの気持ち。


まずい。まずい。
このままじゃまずい。非常にまずい。


「へ、辺見くん」

「はい、なんでしょう」

「おかげさまで泣かずに済みました。なので離してもらえませんか?」

「もうちょっとだけ、このまま。女の子を抱きしめたのもいつが最後か思い出せないくらい前のことで、出来ることなら思い出したいんだよね」


なんじゃそりゃ、という言葉が口から出かかって急いで思いとどまる。
彼の妙なワガママは、彼らしいと言えばらしい。
私だってこんな風に抱きしめられたのって何年ぶりだろう。
きっと5、6年は経ってしまったはず。


ま、いいか。
嫌じゃないし、あったかくて気持ちいいし。
そう思って目を閉じたら、頭を撫でてくれた。


うーん、参ったな。
相手はあの変人くんなのに、こんな気持ちになるなんて信じられない。
気持ちいいとか思っちゃったよ。
離れなきゃって思うけど、脳の司令を身体が受けてくれない。


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