窓ぎわ橙の見える席で


「こうしてると、少しは悲しい気持ちとか暗い気持ちが減らない?僕は仕事で疲れた時とか、よく猫を抱きしめて眠るんだよね」


辺見くんの声が聞こえて、ぼんやりしていた頭が覚醒した。


「…………減る、かも」


答えながらチクリと胸が痛む。
あ、そうか。猫と一緒か。
私が悲しそうにしていたから抱きしめてくれただけであって、それ以上の感情は無いってこと。
なんとなく彼ののらりくらりとした性格を考えれば分かる。
熱くなっていた頭が少しずつ冷えて、冷静になった。


そんなタイミングでちょうどよく、辺見くんがそっと腕を解いて身体を離す。
触れ合っていた部分はまだちょっとだけ熱を持っていて、それがチリチリと心を焦がす思いがした。
顔を上げると、彼はいつものヘラッとした笑顔だった。


「いつか、フランス料理のお店を出せるといいね」

「…………そんなたいそれた夢持ってないわよ」

「おばあちゃんの仏壇にフランス料理出してみたら?きっと喜んでくれると思うよ」

「おばあちゃんは和食が好きだったんだもの。そんなの出しても喜ばない」

「でもきっと宮間さんが作りたいものをお供えした方がおばあちゃんも嬉しいと思うんだけどなぁ」

「そうなのかな…………。本人に聞けないから分かんないや」


私は車から降りると辺見くんに再びお礼を告げ、さっきのことは無かったみたいに振る舞って「またね」と手を振った。
彼もまたいつもと何ら変わりなく微笑んで手を振ると、車を走らせていなくなった。


そうして去った彼の温もりが消えてしまった冷えた腕をさすって、あの温かさはズルいなぁと思うのだった。


辺見くんは、私を猫のように思っているのかな。
少しだけ寂しくなった。










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