窓ぎわ橙の見える席で


藤枝さんは大輝くんの腕に自分の腕を絡ませて、フンッと何故か勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「信じられないわね、他人のものを盗ろうとしておいてそんな態度。いい?大輝は私のものなの。あんたみたいな女、なんの価値も無いんだから」

「は、はい……」


もう縮こまって余計な言い訳はせずに、下を向いてやり過ごすことにしよう。
こんな人には何を言っても無駄だ。
そう思ってうなずいた。


腕を組まれた大輝くんの顔は引きつっている。
とんでもない女と付き合ってしまったとでも思っているのか、黙っていた方が藤枝さんの怒りが鎮まると思ったのか、無言で愛想笑いをしていた。


「所詮あんたなんか一般庶民なのよ。大輝は私と婚約までしているの。ウチに婿入りするのよ。あんたが入る隙間なんてどこにもないんだからね」

「はい……」

「どんなに着飾ったって私には適わないの。大輝は単につまみ食いしたかっただけ。あんたじゃなくても誰でも良かったのよ、分かる?」

「はぁ……、分かります……たぶん」


彼女は一体いつまで私を卑下するつもりなのか、気落ちしながらも曖昧な返事を繰り返した。
チラリと大輝くんを見やると、虚ろな目で空を仰いでいる。
その顔は魂が抜け出たみたいで笑えた。


「ちょっと!あんた何笑ってんのよ!」

「あ……、ごめんなさい」


怒り狂う藤枝さんに、まさかあなたの婚約者の間抜け面が面白くて笑いそうになったなんて言えない。
慌てて口を手で押さえていたら、隣りに立っていた辺見くんが「あの〜」と切り出した。


「ちょっとお取り込み中よろしいですか?」

「は?なによ、あんた」


レーザービームのような鋭い視線を藤枝さんに向けられても、辺見くんは動じない。
むしろニッコリ微笑んでスルーした。


「先ほどのあなたの言葉を訂正させてもらいますね。申し訳ありませんが、僕にはあなたがどうしても魅力的な女性には思えないんですよね」

「……………………は?」


藤枝さんがピシッとその場に凍りついたのが感じ取れた。
一時停止状態になっている。


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