窓ぎわ橙の見える席で


彼が深い眠りについたら、そっとベッドを抜け出そう。
そしてソファーに移動して眠ろう。
そうじゃないと、私はたぶん眠れない。


それにしても、辺見くんにはほとほと呆れた。
分かりやすく襲ってくるわけじゃないのに、だからと言って焦って距離を離すことはしない。むしろこうして近づいてくる。
彼の言動はいつも私の予想を遥かに超える。


「ほんと、辺見くんって普通じゃないよね……。変人だよね……」

「そう?どこが?」

「イケメンにこんなことされたら、女の子はみんなコロッと行くわよ?行かないのは相手が辺見くんみたいな変人だからよ」

「へぇ〜。宮間さん、コロッと来てくれることもあるの?どんな時?」

「そのスイッチが分かってたら今まで苦労しなかったな……」


いつもただなんとなく仲良くなり、なんとなく告白されてなんとなく付き合ってなんとなく別れる。
繰り返してきた私にも、異性にコロッと気持ちが傾いてなんにも考えずに「好き」と自分から伝える日が来るのだろうか。


つけっぱなしの冷房のせいで冷えていた指先が、辺見くんのおかげでじわじわ温まってきた。
その温もりにぬくぬくしていたら、優しい声で彼が太鼓判を押した。


「大丈夫。宮間さんのいいところは僕が知ってる」

「例えば?」

「もったいないから言わない。僕だけが知ってる、宮間さんのいいところだからね」

「………………なによ、それ」


私はフフッと笑ってしまった。
そして、気がついた。


今日の同窓会で会ったみんなも、大輝くんもてらみもきっと知らない、辺見くんのいいところ。
それを私は知っている。


トキ食堂の食事だけを頼りに生きていること。
お昼ご飯は私の作ったお弁当を食べていること。
痩せの大食い。
食べてる時が一番幸せそうなこと。
猫の名前はアン。微生物のアンなんとかってやつから取ったこと。
学校で着ている白衣が案外似合ってること。
生物の教師になったのは、おじいちゃんに言われたことがキッカケだったこと。
相変わらず生物をこよなく愛しているということ。
大きめの蛾も素手で掴めること。
律儀に手帳を持ち歩いていること。
ポリポリと頬をかくのが昔からのクセってこと。
変わり者だけど、他人のことをよく見てること。
けっこうおしゃべりで、話題の大半が生物の話であること。
車に乗せてもらうたびに、小さな変化があること。
辺見くんの腕の中は、安心すること。


数え切れない、彼のこと。
私も知っている。


きっと私だけが知ってること。






いつからだろう。
私は………………辺見くんのことが、好き。


ようやく自分の気持ちに素直になって、そう思えた。
でも、辺見くんは?


成り行き以外の言葉では表現出来ないこの状況で、彼に聞くことは出来なかった。
どうやったら素直になれるのか考えたけど、答えは出なくて。


私は彼の腕の中で丸まって、そのまま眠ってしまった。









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