窓ぎわ橙の見える席で


たぶんこのタツノオトシゴのボールペンって、結婚式の二次会とかでウケ狙いでもらうような実用性は軽視したアイテムだと思うんだよね。
仕事で使うにはちょっと微妙っていうか。
でもせっかく貰ったものだし。


それに、このボールペンを見てると辺見くんを思い出す。
ヘラッと気の抜けた顔で笑うあの顔。
だんだん私の癒しになりつつあるのだ。


私と辺見くんが付き合い出してから2週間。
恋人になったからと言って糖度が増したかというとそうでもなく。特別変わりはない。
時々彼のアパートに泊まりに行くくらいだろうか。


彼が設定してくれたタブレット端末は非常に重宝しており、仕事においては大活躍していた。


明日の定食メニューを鱈のポワレのバター醤油ソースがけに決めた私は、厨房で簡単に明日の仕込みをしてから仕事を終えた。


お店をあとにして、おそらくいつも通りに駐車場で待っているはずの辺見くんを探す。
たいてい駐車場には彼の車がポツンと1台だけあるのだけれど、今日はもう1台違う車が停まっていた。
暗くてよく分からないが、車のエンブレムを見る限りではなかなかの高級車だ。


あまり気にすることなく奥にある辺見くんの車を目指して歩いていたら、そばに停まっていた高級車から人が降りてきた。


見たことのない、50代くらいの男性。
口ひげをきちんと整えていて優しそうな雰囲気を持っており、綺麗な白髪頭で、オシャレな服を着たハイセンスな人だった。


「こんばんは、ちょっといいかな?」


突然話しかけられたので、私はびっくりして立ち止まった。

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