窓ぎわ橙の見える席で


彼は私が警戒していることに気がついたのか、申し訳なさそうに肩をすくめて苦笑いした。


「決して怪しい者じゃないよ。君と少し話がしたくてね」


ゴソゴソとジャケットの内ポケットを探り、1枚の名刺を差し出してきた。
受け取り、目を通す。


『フレンチレストラン・ポッシュ オーナーシェフ 本宮圭造』


フ、フレンチレストラン!?
目を丸くして彼を見つめると、本宮さんというその男性はにっこり微笑んだ。


「初めまして、本宮圭造と申します」

「は、初めまして。宮間つぐみです」

「あなたがこの食堂のメインシェフで間違いないですね?」

「いえ、私はただの雇われの身で……」

「おや?店頭に大々的にうち出している一流シェフって君のことじゃないのかい?」

「あ、あれは……」


慌てて否定しようとしたけれど、待てよ、と思いとどまる。
いまだに何枚もポ貼り付けたままの、涼乃さんが作成したポスター。そこには確かに『東京出身の一流シェフ』という文字が踊っている。
正しくは『東京で働いたことのある普通のシェフ』なのだけれど。


「た、た、たぶんあれは……私です」

「そうか、君だったのか。待っていて良かった」


目を細めて笑う本宮さんに、私はおそるおそる尋ねた。


「あの、お出しした料理とかで気になるものでもありましたか?味が濃すぎたとか、髪の毛が入ってたとか……」


クレームだったらどうしようという気持ちが先行して、不安に駆られてしまった。

< 162 / 183 >

この作品をシェア

pagetop