窓ぎわ橙の見える席で


30分後、怒涛のランチタイムは終了し、オーナーはエプロンを外してお店の一番隅っこの目立たない席に座っていた。
彼の向かいには本宮さんがいて、そして少し離れたところに心配そうな顔をしたオーナーの奥様の涼乃さんがポツンと座っている。


ランチタイム終了後はカフェタイムとなり、まったりと18時のディナータイムまで続けられる。
本来なら私と仁志さんはこの時点で休憩といったところだが、今日は私はことの成り行きを見届けるためにお店に残っていた。


「…………なるほど、話は分かりました」


いつになく真剣な表情で、オーナーがうなずくのが見えた。
本宮さんの話を聞き終えて、どこか自分にも言い聞かせているような印象を持つ表情だった。


「つまり、つぐみちゃんを引き抜きたいってことなんですよね」

「はい、平たく言えばそういうことです。ですが彼女の力量も未知数ですので、出来ることなら一度彼女の本気で作ったフレンチを食べてみたい。それから採用するかしないかを決めたいと思ってます」


本気で作ったフレンチ、って。
もう超一流のフランス料理を作っていたあの現場から半年以上も遠ざかっているのに、大層なものは作れない。
あんな舌が肥えていそうな本宮さんを唸らせることが出来るなんて思っちゃいない。
…………って何を作る気になってるんだか、私ったら!


コソコソと耳をそばだてて厨房で会話を聞いていたら、「つぐみちゃん」と涼乃さんに話しかけられた。


「ちょっといいかしら?あっちで2人が呼んでるのよ」

「あ…………、はい」


エプロンを外してぐるぐる巻きにして作業台に置いて、おずおずとオーナーたちのいるテーブルへと向かった。


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