窓ぎわ橙の見える席で


ビクッ!と男が動く。
それに合わせて私たちは「ひいぃっ!」と飛び上がった。


モゾモゾと男が顔を上げた。
私は彼の足元に立っているので顔は見えない。
が、他の3人は彼の顔を見た途端に爆笑していた。


「あっはははは!なぁんだ、先生じゃないかー!」

「もー!ビックリさせないでくださいよ〜」

「ほーら、またお腹ペコペコなんでしょー?頑張って起きなさい!先生が来ないうちに一流シェフがうちに入ったのよ〜!美味しいのごちそうしてくれるから!」


オーナーと涼乃さんが無理くり男を起こして両脇を抱える。男は引きずられるままだ。
空良ちゃんは彼のリュックを持って、笑顔になっている。
私だけが取り残されて、4人はお店に入っていってしまった。
我に返った私も急いで店内に飛び込む。


男の顔を確認する間もなく、オーナーが軽やかな口調で両手を合わせてきた。


「悪いね、つぐみちゃん!ちょっと冷蔵庫の余りで適当になんか作ってくれないか?」

「え!まかないですか?」

「うん、本当になんでもいいんだ。あ、腹にたまるもので、栄養価の高いものがいいな」

「わ、分かりました……」


私が承諾したのを見届けて、オーナーは厨房から出ていく。
どうやらさっきの男の元へ行ったらしい。
厨房からもフロアの様子は見えるけれど、力なくテーブルに突っ伏しているホームレス風の男の姿はよく見えない。
だけどなぜか、オーナーたちは彼に好意的だ。


それに、「先生」とか呼んでたような……。
よくドラマとかでありがちな、風変わりの天才医師みたいな人?
もしくは見た目にこだわらない、ものすごくやり手の社長さんとか?


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