私は、エレベーターで恋に落ちる
『大変申し訳ございませんでした』
だって?

いったい、どういうこと?

いきなり人から頭を下げられたら普通、驚く。
間違っても、嬉しいって思ったりしない。

さっきまで犯人扱いしてたのに、こんなふうに態度が豹変して謝られるなんて。
やっぱり怪しいと思う。

胡散臭い。絶対になんかある。

渡された名刺を手に取る。

B.C. Buildingセキュリティー株式会社、警備主任と書かれていて名刺の隅に、にかっと笑った写真が印刷されている。

私は、ダークスーツの男をちらっと見る。

どこにでもいる中年のおっさんだ。

こっちを向いたままの、おっさんの頭のてっぺんの真ん中が、少し剥げかかってる。

怪しさが少し減った。

いつ撮られた写真か分からないが、警備主任は写真より、明らかに劣化しているじゃないか。

どことなく、哀愁さえ漂っている。

こういうふうに、禿げてる人で悪い人はいない。
少なくとも、私の知ってる限りでは。

思うに、悪いことをするような人間は、図太い神経を持ち合わせているから、周囲に気を使って、髪が薄くなったりしないだろう。
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