私は、エレベーターで恋に落ちる
「暴れるな」と言われまれましても。
いきなり捕まえられたら、抵抗するでしょう?
「暴れるなですって?あなたもう一度、弁護士さんに女性の扱い方教えてもらった方がいいわね」
「抵抗するから、こうして押さえつける。静かにしていれば、何もしない」
「そんなこと、信じられますか!」
私と伊村さんは、エレベーターの中でもみ合いながら、お互いに自己主張して譲らない。
「あああっ、もう早くしてくれ。時間が過ぎちゃうじゃないか。俺のこと見てないで、いいからボタンの方を見て!」
「見たいわけじゃなくて、あなたの手がそっちに向くように顔を押さえてるんでしょう?何でこんなことになってるの!! だから、触らないで。手を離してくださいって!」
「わかった。もうわかったから、前を向けよ」
伊村さんは、手の力を緩めて私を扉の方に向かせるようにした。
手の力を抜いて、ようやく私の体を離した。
彼の腕から逃れて、自由になった。
ふら付きかけたので、立つ位置を直そうと思った。
そうしたら、今度はそっと近づいて来て、優しく手を頬に添えられた。
「何しようとしてるの?」
口ではそう言ったけれど、男の顔を見たら何か言われそうで、なるべく感情を押さえて黙ってエレベーターの操作ボタンを見つめていた。
彼が体を寄せて来た。
気付いた時には、上を向くように顔をあげさせられていた。
「優しくしたら、言うこと聞くのか?」
すでに、目の前に彼の大きな顔がある。
真剣な眼差し。
無駄に整った顔立ち。
間近に引き寄せられ、じっと見つめられて、ぼおっとしてしまった。
彼がしようとしたことに気付いた時には、もう遅かった。
ぴったり唇がふさがれていた。
壁に押し付けられて、背中がひんやりする。
背中を冷やされて、我に返った。