私は、エレベーターで恋に落ちる
「それだったら……上の階のレストラン予約して。今からでも……」

言い終わらないうちに、携帯を取り出したと思うとすぐに番号を打ち込んでる。

「ちょっと待って」
私は、彼が携帯を耳に当てようとしてるのを止めた。

私が止めたので、驚いてるみたいだ。

上の階のレストラン?

そう聞いたら、普通は断らない。


「どうして?食事するんだろう?ああ、そっか。ごめん、君が何を食べたいのか聞いてなかったっけ」
と言って、彼は一旦、ダイヤルするのを止めた。

「どうかしたのか?」

そして、様子をうかがうように、私の目を見つめてくる。

お互いの視線が絡み合って、交わる。

この唇とキスしたんだ。

そう思うと体が熱くなる。


「予約しなくていいところにして下さい。もし、そんな高級店に行ったら、ずっと思い出しますから」

彼が笑って言う。

「だから、思い出させるために、記念になるようなところの方がいい。ずっと忘れないためにね。
下のレストランなんてダメだ。君だってそんなのしょっちゅう行ってるだろう?」

彼は、私がまだ遠慮して、そう言ってるのだと信じてるみたいだった。
さっきから、私の表情を気にしてる。

「そのほうがいいんです。そういう店だったら、想い出って何度も書き換えられるじゃないですか」

「そっか。いいよ。君がそういうなら、そうしよう」
< 94 / 155 >

この作品をシェア

pagetop