対象外でも恋咲く
「はい? 見つめ合ってなんていませんから」


不本意だと紗和は目をつり上げる。確かに二人は見つめ合っているのではなく、睨み合っているといったほうが正しい。

課長は肩を竦めて、苦笑いし、二人から離れていく。紗和は課長の後ろ姿にため息をついて、弘人を真っ直ぐ見る。

どちらかが折れない限り、この話は終わらない。こんなことでは他の仕事が出来ない……。


「分かりました。こちらが先でいいです」


「うん、ありがとう。お礼にお昼は奢るからね」


紗和は渋々と弘人の意見に従うことにした。弘人は、少年のようなかわいい笑顔で喜ぶ。

この笑顔に心をときめかせる女性が多いのだが、紗和の心は冷ややかだった。


「美味しいものをお願いしますね」


「うん、もちろん」


イケメンの笑顔になんか騙されないというセオリーを曲げることはしない。弘人に至っては素直に喜んでいただけではあるが。
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