対象外でも恋咲く
解放された弘人は立ち上がって、カバンを持つ。


「俺、帰ります!すいません、図々しくあがりこんでしまって……お邪魔しました」


「あ、うん。私こそ変なこと言ってしまって、ごめんね」


瞳は、自分を避けるように帰ろうとする弘人にホッとするものの、落胆もしていた。

必要以上に近付いたのがいけなかったと後悔しても遅いが…。


「嫌われちゃったかな…」


弘人が帰ってから、瞳はベランダに出て、空に浮かぶ三日月を見ながらポツリと呟く。


その頃、弘人も三日月を見ながら駅へと歩いていた。

今夜の自分の行動を思い出す弘人の心はかなり揺れ動いていた。瞳に男を感じたと言われ、今まで同僚としてしか見ていなかった瞳を女として意識してしまった。


同じ課で働く人を恋愛対象としてみないようにしてきたのに、どうしたらいいのか…近付き過ぎてはいけないはずだったのに、家にあがるなんて…ラーメンを食べたらすぐに帰れば良かった…。

何度後悔しても、もう遅い。
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