次期社長の甘い求婚
立ち尽くす私に神さんはスーツの襟を直し、エレベーターの中で見せた笑顔を向けてきた。


「さきほどは失礼。名乗りもせずに声を掛けたりして。一応名乗らなくても、知られているとばかり思っていたから」


「はい?」


すっとんだ声が出てしまう。


ちょっと待って。

もしかして神さんってば、私が自分のことを知らないと思って、わざわざ自己紹介するために戻ってきたって言うの?


まさかの予感はズバリ的中していたようで、わざとらしく咳払いするとスーツの内ポケットから名刺入れを出し、そこから一枚取ると私に差し出してきた。


「申し遅れました。半月ほど前からこちらの営業所でお世話になっている、神恭介といいます」


「えっと……はい」


一応名刺を受け取るものの、コメントに困る。
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