次期社長の甘い求婚
神さんのお父さんが社長室を出て行って数分経つと、ノックする音が聞こえてくると同時に、躊躇いがちにドアが開かれた。

その瞬間思わず立ち上がってしまい、ドアの方へと視線を向けてしまう。


もちろんドアを閉め、なかなかこちらにやってこないのはお父さんだ。


私も私でさっきのこともあり、なんて声をかけたらいいのか悩んでしまう。


本当は謝りたい。知らなかったとはいえ、酷いことを言ってしまったと。
それなのに、なかなか声に出して言うことは出来なかった。


どれくらいの時間、お互い立ち尽くしたままでいただろうか。
重たい空気の中、先に口を開いたのはお父さんだった。


「神から聞いたんだよな? その……今までのことを」

「あっ……はい」


戸惑い気味に発せられた声に頷くと、お父さんは「まいったな」と溜息交じりに呟いた。


「妻との間に子供はひとりいるが、男の子でね。……それになにより初めての子供で美月のこと、可愛くて仕方なかったんだよ」


初めて聞くお父さんの本音に胸が痛い。


ゆっくりとこちらに足を進めながら、お父さんは話を続けた。


「美月が生まれた日のことは今でも鮮明に覚えているよ。……月がとてもきれいな夜でね。だから名前を美月にしたんだ」
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