次期社長の甘い求婚
短い時間、できるだけ神さんとふたりっきりの時間を過ごしたかった。


それによくよく考えてみたら、関東営業所にいたときも神さんは忙しい人だった。

外でデートはしたけれど、お互いの家で休日をのんびりふたりで過ごしたことは、一度もなかったから。


「それにほら、少しでもシュミレーションしたいじゃないですか。……来月から一緒に暮らし始めてからのこと。朝の「おはよう」から「おやすみ」までずっと一緒にいたいし、神さんの身の回りのことやりたいんです」


「……そっか」


納得してくれたのか神さんはふわりと笑い、私の手を取った。

それだけで心臓が暴れ出してしまう。


「そうだよな、これからのために予行練習しておかないとな。……それにこうやって美月とスーパーで買い物するのもいい。まるで新婚夫婦みたいだ」


“新婚夫婦みたい”


それが嬉しくて気恥ずかしくて、どんな顔をしたらいいのか迷ってしまう。


誤魔化すように無駄に髪を触ってしまっていると、神さんはクスクスと笑い出した。


「なんだよ、そんなことで照れるなって。近い将来、本当にそうなるんだから」


神さんの何気ない言葉に嬉しくさせられ、胸を痛まされる。
そして泣きたくなった。
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