次期社長の甘い求婚
「いってきます」


誰もいない家に挨拶をし、戸締りを済ませ家を後にした。


「あれ、小野寺さん?」

「……鈴木主任」


最寄駅で電車を降り、人の波に流されながら改札口へ向かっている途中、躊躇いがちに掛けられた声に心臓が飛び跳ねた。


足を止め振り返ると、私だと確認した鈴木主任の表情がみるみるうちに緩んでいく。


「あっ、やっぱり小野寺さんだった! 珍しいね、ここで一緒になるなんて」

「そうですね」


肩を並べ、改札口へと向かっていく。


こんな偶然珍しい。

もしかしたらいつも同じくらいの電車だったのかもしれないけど、これだけたくさんの人の中で会うことなど、なかなかない。


「小野寺さんはいつもこの時間の電車なんだ?」

「はい、鈴木主任もですか?」


Suicaをかざして改札口を抜けると、鈴木主任は照れ臭そうに頭を掻き出した。
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