レーザービームの王子様
私の言葉をさえぎって、総司がきっぱりと言い放った。

同時に足を止め、腕は掴んだまま改札の前で私を見下ろす。



「まさかだけど、すみれ……久我 尚人に、惚れたとか?」

「ッ、」



カッと、頬が熱くなった。

総司はそれをどう受け取ったのか、ますます眉をひそめる。



「ふーん、そう。そうなんだ」

「ちが、……そんなのわかんないし! ていうかそれこそ、総司には関係ない……っ」

「だから、関係あるんだよ俺には」



吐き捨てるように言ったかと思えば、再び前を向いて歩き出す。

もう、私の左腕は解放されていた。釈然としないながら、奴と私は帰りの路線が同じなので仕方なく後を追う。


……こんなふうに不機嫌な総司は、久しぶりに見た。

私が久我さんと会ってたのが、そんなに気に食わなかったの?

やっぱり久我さんが有名人だからって、私のこと騙されてるんじゃないかと思ってるんだろうか。……小さい頃から知ってる幼なじみとはいえ、今はお互い大人なんだし。いくらなんでも過保護すぎだ。



「………」



久我さんに惚れたのか、なんて。あんまり普通に訊いてくるから、びっくりした。

だって、久我さんはプロ野球選手で。私たちとは、住む世界が違う人で。

だけど、だけど──私が彼に惹かれてしまっていることは、弁解のしようもなくて。

はっきり、すきになってしまっているかはわからない。それでも私はたぶん……いや、隠しようもなく、また久我さんに会いたいと思ってしまっている。

……総司は、それを見抜いたから。だからきっと、私が傷つくことにならないか、心配してくれているのかもしれない。


改札を抜け、ホームに続く階段をのぼりながら、そっと自分の腕を見下ろす。

総司に掴まれた左腕には、うっすらと赤い痕が残っていた。
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