レーザービームの王子様



「だ、か、ら~~……こないだ久我さんと出かけたのは、そういうんじゃないんだってば!」



毎度おなじみの居酒屋【むつみ屋】に、私のうんざり声が響く。

テーブルを挟んだ真向かいでジョッキ片手ににやけ顔をしているのは、我が親友・三上 広香だ。



「またまた~。男女が待ち合わせて一緒にお出かけなんて、それはもう立派なデートよデート」

「ち、違うから。久我さんは、こないだ酔っ払ってたところを介抱したお礼とお詫びにって」

「それもまたうさんくさい話だよねぇ。そのときすみれ、久我さんの家まで行ったんでしょ? 実は勢いでやっちゃったとかじゃないの?」

「変なこと言わないでよ……!」



両手のこぶしをぎりりと握りしめ、努力で抑えた声音で抗議した。

全力で否定しているというのに、広香はそんな私の様子さえもおもしろがっている。

ふぅん、なんて気のない返事で生春巻きを頬張る彼女を、諦め半分のジト目で見つめた。


久我さんとふたりきりで出かけたあの日から、ちょうど1週間が経った。

今日は久々に会う広香と、【むつみ屋】で女子会だ。

顔を合わせて早々、「こないだ話してたプロ野球選手とはどうなったの?」なーんて興味津々で訊いてくるから、あくまで状況報告的に先週の話をしてみたら……まあ食いつく食いつく。


恋愛脳の広香に言わせれば、あのお出かけは間違いなく『デート』らしい。

……デートって。たしかに久我さん本人もそう言ってはいたけど、改めて言葉にされるとものすごくむずがゆい。

だって私、今までそういったものにまったく縁がなかったんだもん。男とふたりで出かけるの、総司とならよくあったけどさあ……。
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