レーザービームの王子様
瞬間、一際大きなどよめきが聞こえ、私はハッとテレビに目を向けた。

遅れて、実況アナウンサーの声が耳に届く。



《おーっとこれはすっぽ抜けたか!! 投球が大きく逸れ、久我選手に対しソルジャーズ浜田投手デッドボールです!》



画面に映し出されているのは、右手で左手の甲を庇うようにおさえ、バッターボックスで片膝をついている久我さんの姿で。


──……え、久我さん?

どくんと、心臓が嫌な音をたてた。



《当たったのは左手、でしょうか。バットのようにも見えましたが》

《左手の甲ですね。これは相当痛いですよ》

《だい……じょうぶでしょうか。久我はまだ立ち上がることができません》



アナウンサーと解説者のやり取りの間も、カメラは久我さんの姿を追っている。

主審によってタイムが宣告され、ウィングスベンチから監督やコーチ、トレーナーたちが出て来た。

未だ、久我さんは左手をおさえうなだれたままだ。別のアングルからカメラが捉えた彼の表情は、痛みに顔をしかめ苦悶に満ちている。



《すみれ? どうしたの? もしもし?》



スマホからもれるお母さんの声も、耳に入らない。

どくん、どくん。痛いくらいに、心臓が早鐘を打つ。



「く……がさ……」



うずくまる彼のまわりに人が集まる。カメラが、心配そうな表情を見せるファンたちの様子も捉える。

そのとき、唐突に──地面に膝をついてうなだれる久我さんの姿が、いつかみた夢の中の光景と重なった。
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