レーザービームの王子様
「もう……いつか、絶対聞き出しますからね?」



くちびるをとがらせ、シャツの袖を軽く引っぱった。

久我さんはものすごく目を泳がせた後、「う、うん……」となんとかうなずく。……あやしいなこれ。


疑いの感情が眼差しに表れていたのだろうか。彼はようやくこちらに視線を向けたかと思うと、苦笑して私の両頬をつまむ。



「ふお、」

「かわいいなぁすみれは。かわいいかわいい」

「……なんか誤魔化そうとしてません?」



わざと不満げに言うけど、久我さんの言葉に顔が熱くなってしまうのは止められない。

おそらく、彼は気付いているのだろう。そんな私にまた笑みをこぼし、ちゅっと軽くくちびるを重ねてきた。



「やばいな俺、すごい浮かれてる。絶対これ彼女できたってすぐまわりにバレる」



とろけるような微笑みでそんなことを言われ、うれしくないわけがない。

それでも言葉にするのは照れくさいから、私はぎゅうっと彼に抱きついた。



「どうしましょう。私、雑誌にスクープされちゃったりして」

「まあ、そうだな、うん。むしろあえて熱愛宣言して、すみれがもう俺から離れられないようにするのもアリかな」

「ふふっ。私、とんでもない人に捕まっちゃったんですね」



束縛的なセリフも、彼に言われるなら不思議と悪くない。

たくましい腕も、安心する香りも。全部が、いとしくてたまらないなんて。

きっと私はもう、彼から離れられない。


笑い混じりの私の言葉を聞いた久我さんは、にやりと口の端を上げて意地悪な顔をする。



「そう俺、送球の速さと正確さがウリだから。狙った獲物は逃がしません」

「あはは。さすが、『レーザービーム王子』です」

「……その呼び方、恥ずかしいからやめて欲しいんだけどなあ」



つぶやく表情は、まるで少年のように拗ねたものだ。

そんな彼に、くすりと笑って手を伸ばす。



「私は、案外好きですよ?」



……王子、なんて。いつからか使われるようになった大仰な呼び方を口にするたび、久我さんは眉をひそめるけど。


それでも私にとってのあなたは、本当に王子様みたいな存在だよって。

運命の、相手だよって。


心の中でこっそり思ってしまっていることは──さすがに恥ずかしいから、言ってやらないのだ。










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