レーザービームの王子様
そして今俺は、プロ野球選手という細く険しい道の途中にいる。

13歳の夏、みっともなく泣いていた俺に『がんばれ』と笑顔を見せてくれた女の子に、妻として支えてもらいながら。

まるで、奇跡のように。再び俺の前に現れた彼女をこれからもずっと、大切にしていきたいと思う。



「ほらほら尚人くん、もうそろそろドームに行かなきゃいけない時間じゃない? 今日もレフトでスタメン出場でしょ?」



からかうように笑うすみれにうながされ、俺はようやく娘から手を引いた。

無垢な瞳が、きょとんと俺を見ている。……ああ、離れがたい。


じんわり浮かんでいた目元のしずくをぬぐう。ベッド上の奥さんへと近付いて、華奢なその身体を抱きしめた。



「……すみれ、あいしてる。それから、俺の子どもを産んでくれてありがとう。守らなきゃいけないものが増えるっていうのは、こんなにうれしいものなんだな」



彼女はふふっと微笑んで、同じように俺の背中に腕をまわす。



「私の方こそ、そんなにうれしいことを言ってくれてありがとう。私も今、とってもしあわせなの」

「俺、これからもっと活躍できるように、今まで以上にがんばるな」

「ふふ、うん。でもケガは心配だから、無茶しないでね」

「わかってるよ」
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