レーザービームの王子様
その瞬間。



「……ッ、」



どうしてか彼の表情が、ファンに見せていたそれまでの笑顔とはまた違う、無邪気なうれしそうなものへと変わって。

控えめに持ち上げていた私の手のひらに触れた両手が、ほんの一瞬だけ、きゅっと包み込むようにやわらかく動いた。



「──見たか!」



まるで、親に褒めてほしい子どもみたいに。なんだか自慢げに彼がそうささやいたときの、まるで太陽みたいな笑顔は、一瞬呼吸を忘れてしまうほど十分な破壊力を持っていた。

驚きすぎて、とっさに言葉を返すことができない。

そのまま彼の手はするりと離れ、今度は3塁側のエキサイティングシートに向かっていく後ろ姿を呆然と眺めた。



「ちょっ、ちょっとすみれちゃん! 今ヒサくんに話しかけられてなかった?!」



一応小声ながらも興奮しきった様子で、松永さんが訊ねてくる。

私はまだ、今は遠くなった広い背中から目を離すことができずに。



「……き、気のせい、ですよ……」



まさか、私の顔を覚えてるなんて思わなかった。

あんな笑顔を、向けられるなんて思わなかった。


球場の、熱気のせいなんかじゃない。

熱くなってしまった頬を隠すようにこぶしをあてながら、私はかろうじて、小さくつぶやいたのだった。
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