レーザービームの王子様
一通り写真を撮られ終えたらしい久我 尚人が、キャップを取ってペコペコと報道陣に挨拶をしている。

そしてそのまま、両脇に警備員さんを伴いながらなぜかこちらに近付いて来た。


……ん?!



「きゃーっすみれちゃん! ヒサくんとハイタッチできるわよお!」



私の疑問符を打ち消すように、テンションマックスの松永さんがバシバシ私の肩を叩く。

そ、そうだった。このエキサイティングシート、主催チームが試合に勝ったときはヒーローに選ばれた選手とハイタッチできるんだった……!!

てことは、この場合その選手っていうのは久我 尚人なわけで。

ああもう、思いっきり観戦楽しんでしまった手前悔しいから顔合わせたくないのに! ていうかチケット渡されてノコノコ来ちゃったのも今さらながら負けたみたいでシャクだし! 私のバカなんでもっと早く帰らなかったの……!



「すみませんが、選手とはハイタッチのみでお願いしまーす!」



端っこで目立たないようにしている私からはよく見えないけど、どうやらシートのそばに久我選手が到着したようだ。

急に騒がしくなったファンたちの歓声の合間に、警備員たちの注意が聞こえて来る。


どんどん、どんどん、近付いて来る歓声。

そしてとうとう、私の目にも久我選手の姿が見えて。


笑顔で松永さんの旦那さんとハイタッチする、ユニフォーム姿の彼。

隣りの松永さんに手をずらしながら、切れ長の瞳が私をはっきりと捉えたように思えた。
< 29 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop