毒舌王子に誘惑されて
「美織は元気にしてた?仕事は順調?」

裕司に問われるままに、私はポツポツと近況を報告した。

裕司と付き合ってた頃と変わらず今もあのマンションに住んでいること、私達が出会った定食屋のメニューが少し変わったこと、サブリナからリアルに異動になったこと。


「へー。週刊誌の編集部かぁ。あんなにサブリナの仕事が好きだったのに、残念だったね」

「うん。 でも週刊誌も楽しいかも知れないってやっと思えてきたとこ」

そう思えるようになったのは、編集長や葉月君のおかげだった。

「恋愛方面は? 綺麗になったし、かっこいい彼氏が出来たとか?」

裕司は悪戯っぽく片目をつぶって、そんな事を言う。

ぱっと葉月君の顔が浮かんだけど、慌てて振り払った。

いやいや、彼氏じゃないし。
思わず自分で自分につっこみを入れる。


「彼氏なんていないよ。 相変わらず仕事ばっかりで行き遅れ確定コースだよ」

私はそう言って笑った。


結局一時間近く、私達は他愛もない話を続けた。


「長々と話し込んじゃってごめんな」

「ううん、久しぶりに話せて楽しかったよ。 ありがとう」

それじゃあねと言って私が歩き出そうとすると、裕司が私の腕を取って引き留めた。

「どうしたの?」

「また今度ゆっくり飯でも行かないか?
ーーもちろん、友達として」

私のせいで別れることになったのに友達として付き合ってくれると裕司が言ってくれるのなら、断る理由なんて私にはなかった。

「うん。楽しみにしてるね」
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