毒舌王子に誘惑されて
・・・というか、あんまり考えないようにしてるけど、出版社って最近問題になっているブラック企業そのものじゃないだろうか。

余裕のある部署なんて聞いたことない。
一般管理部門は極端に人数が少ないから、私達とは違う理由で激務だし。

リアルの過去号にブラック企業の批判記事があったけど、みんなどんな顔して書いてたんだろう。


ーーこれも、考えたら負けの一つかな。


「美織さん。これ、赤入れお願いします」

どさっと音をたてて、大量の資料が私の机に積まれる。
再来週号に掲載予定の記事の草案だ。


「それと、ここのレイアウトなんですけどーー」

男性にしては細く形の良い葉月君の指が
カラー印刷された紙の上を滑る。


葉月君は何も変わっていない。
いつも通りに話しかけてくるし、笑いかけてもくれる。



ーーだけど、


この手が、綺麗な指先が、私に触れることはきっともうない。


何一つ変わっていないのに、私達の間には透明な線が引かれていて、これ以上は踏み込むなと警告する。

あの時、すぐに追いかけていれば・・

そんな風に後悔する私を、臆病な私が慌てて宥めようとする。

これで良かったんだよ と必死に言い聞かせる。
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