毒舌王子に誘惑されて
今回ばかりは本当に偶然だった。
よりによって、このタイミングで・・

向こう側から歩いてくる裕司と、私の視線がぶつかる。


「裕司・・」

「美織。今日、仕事じゃなかったの?」

裕司は落ち込む様子を隠しもせずに、沈んだ声で言った。

その様子を見た葉月君が、私より先に口を開いた。

「仕事ですよ。ラーメン屋の取材です。
すぐそこの一灯って店、知ってます?」

軽い調子で話しかける葉月君に、裕司はほっと安堵した顔を見せる。
葉月君の態度から、私達がただの同僚だと理解したんだろう。


「佐藤さん。 俺のミスなのに手伝ってもらっちゃって、すみませんでした。
残りは俺一人でも大丈夫なんで、ここで解散にしましょ。
それじゃ、お疲れさまでした」

葉月君は裕司の前で出来の悪い後輩を演じているようだった。
一方的に話をまとめると、私の返事は待たずに立ち去ろうとする。


「ーー待ってっ」

私は葉月君の背中に叫ぶと、彼の腕を必死に掴み取った。


「「えっ!?」」

葉月君と裕司が同時に声を上げ、私を見る。

私は裕司に向き直ると、彼の目を見て、ゆっくりと話し出した。


「今日、仕事なのは本当だよ。
だけど・・この人は同僚じゃなくて、私の好きな人なの。やっと気づいた。

だから、裕司の気持ちには応えられない。本当にごめんなさい」

私は裕司に頭を下げた。
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